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この夏におすすめの本
2023.07.12
こんにちは。まだ梅雨明けの発表もありませんが、暑い日が続きますね。今日は夏におすすめの本を何冊かご紹介いたします。
あまり季節に関係はないのですが、日本の場合、「戦争」のことを考えるのは8月が多いのではないでしょうか。二度の原爆投下から終戦まで、あまりにも凄惨な出来事のあった月ですから当然といえば当然なのですが、当時の戦争は長きに渡り、いたるところを戦地として繰りひろげられました。日本とはちがう地点から見た、戦争に翻弄される人生を描いた作品が、『そこに私が行ってもいいですか?』(イ・グミ著、神谷丹路訳、里山社)です。
日本が朝鮮半島を統治していた時代に、そこに生まれた二人の女性。ひとりは対日協力により富を築いた子爵の娘、もうひとりは、その娘への贈りものとして買われた貧農の娘です。その二人がさまざまな国を舞台に、時代に翻弄されながらも生き抜いていく姿を、ものの見事に描き出しております。
今でも何ら解決しているとは思えない女性問題ですが、朝鮮における当時の、ましてや戦時の扱いは、苛酷という言葉では足りないでしょう。そんな時代を生き抜いた人物たちのことばはとても重く、今を生きる私たちに深く問いかけてきます。
単行本でかなりの厚みですが、現代から振りかえるミステリー仕立ての構成と、読みやすい翻訳のおかげもあって、さほどボリュームを感じさせません。韓国では青少年文学(児童文学)に該当するとのことですが、この作品が児童文学とは、韓国文学の懐の深さに脱帽です。『パチンコ』(ミン・ジン・リー著)と並んで、ぜひ日本の大人の方に読んでいただきたい一冊です。
『そこに私が行ってもいいですか?』に、大韓民国臨時政府のことが出てきますが、その臨時政府のことを描いた『ウジョとソナ』(パク・ゴヌン著、ヤン・ウジョ、チェ・ソナ原案、神谷丹路訳、里山社)を、二冊目にご紹介いたします。
独立運動家として臨時政府ではたらくウジョと、その妻ソナ。臨時政府は中国の上海で創設されましたが、日中戦争の戦況に応じて、活動拠点を転々と移します。活動中に子どもも生まれ、子育て日記として微笑ましい面も垣間見せてくれるものの、やはり時代の波に飲み込まれつつ生きていく、その暮らしぶりを描いたグラフィックノベルです。
私たちがよく知るように、日本各地も空襲の被害にあいましたが、日本も中国各地を空襲しました。その戦禍、被害にあう町の様子が、モノクロのグラフィックで、痛ましくもわかりやすく描かれております。
あれからかなりの時が経過しましたが、今もなお、世界のどこかで争いが起こり、戦火がやむことはありません。いつの時代でも、翻弄されるのは民衆である私たちです。歴史を知ること、あったことを学ぶこと、未来を考えることは、私たちの権利であり、義務であるかもしれません。歴史の一側面を知るきっかけのひとつとして、ぜひ手に取っていただければと思います。
最後は、戦争とは関係ありませんが、前の二作品の舞台に関連するということで、チベット文学の『路上の陽光』(ラシャムジャ著、星泉訳、書肆侃侃房)をご紹介いたします。
8つの編からなる短編小説集ですが、どの編も味わい深く、私がまだ行ったことのない、遠い地とそこに住む人びとのことを想像させてくれます。作品の前面には出てはこないものの、弾圧下の状況もうっすらと垣間見え、そうした環境下で暮らすさまざまな境遇の人たちが、さも本当にいるかのように、物語から浮き出てくるようです。
各編のタイトルには、陽光をはじめ、川や星といった自然に関するものが多く、舞台やセリフ、文章の比喩表現にも、自然との距離の近さが感じられます。チベットの方々が本来もっているであろう、素朴なお国柄のようなものに親しみを覚えますが、世の無常を思わせる結末の編もあり、深く宗教が根付いた地の人びとの死生観、人生観のようなものもまた、作品からにじみ出ています。
亡命政府や弾圧の問題として語られることの多いチベットですが、ニュースとしてではなく、こうした文学作品を通じて、彼の地に思いを馳せるのも、陽光のまぶしい夏にふさわしいかもしれませんね。
ご紹介した作品のほかにも、すばらしい本はたくさんございます。最近の日本の夏は、無理せずに快適な室内で過ごすのがいちばんです。そんな一日のお供をさがしに、ぜひお近くの本屋さんをたずねてみてはいかがでしょうか。