本屋象の旅

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「本を売る技術」
2023.03.18

こんにちは。先日発売された「本の雑誌」で、漫画「本を売る技術」の連載がはじまりました。原作は、本屋を開業するうえで大変参考にさせていただいた一冊なので、ご紹介を兼ねた本屋の仕事のお話をしたいと思います。

 

 

著者は矢部潤子さん。リブロ池袋本店をはじめ、長年にわたって書店員として活躍されていらっしゃった方です。タイトルが語るとおり、本を売る側として、どうすればお客さまによろこんで本を買ってもらえるかという点に絞り込んだ、マニアックと言って差し支えない内容になっております。

 

本の並べ方から、注文の仕方、店舗内業務の時間配分の考え方や売り場全体への目配りなど、書店員としての仕事のイロハが、これ一冊で充分と言えるほどこと細かに記載されております。

 

ここまで徹底して売り場のことを考えているのか、という感嘆が漏れると同時に、これは実践が大変だろうな、とも思いました。実際、この本で語られるような、意味を持って綺麗に並べられた本屋には、最近はお目にかかっておりません。多くのお客さまがいらっしゃる中で、本棚や平台を綺麗な状態に保つのは至難の業です。ノウハウの断絶のみならず、人手不足などの要因も大きいと思いますが、小売店である書店のあるべき姿として、ひとつの理想が掲げられているとも思います。お読みになった書店員さんがいらっしゃったら、ぜひ理想と現実のお話をお聞かせください。

 

さて、他人事のように語ってまいりましたが、この本には「大きな書店における」本を売る技術が記されております。わたしのお店のような小さな本屋とは、陳列するスペースや取り扱う本の分量はもちろん、仕入れの方法や取引条件、日々の業務内容まで、まったくといっていいほど違います。ですので、参考にさせていただいたのは、言葉にするとあたりまえにしか聞こえない次の一点のみです。

 

「本を傷めないように並べること」

 

あたりまえのことなのですが、ただ単に丁寧に扱ったり、並べたりといったことだけではなく、なかなかに奥深いのです。本は手にとって、ページをめくって、はじめて買うかどうか判断されることがほとんどでしょうから、どうしても傷む可能性があります。なるべく傷まないようにするために、どうすればよいか。この本に書かれていることをひとつの指針として、お店の本を並べております。

 

また、この本で触れられている項目で、真逆の方法をとっていることもございます。ほかの本屋さんで同じことをしているケースは見たことがないのですが、本を傷めないためにはこの方がいいだろうと思ってやっていることです。地味すぎて気がつきにくいと思いますが、いったい何をしているのか、気になる方はぜひお店で探してみてください。売り物だから、とかではなく、本はいつでも丁寧に扱いたいですね。