本屋象の旅

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「台湾漫遊鉄道のふたり」と「日台万華鏡」
2023.05.21

こんにちは。今日は台湾にまつわる二冊をご紹介いたします。

 

 

まずは「台湾漫遊鉄道のふたり」から。舞台は1938年の台湾。日本人の作家が、統治下の台湾に、講演をしながら一年近く滞在します。台湾人(本島人)の通訳を務める女性とのあれこれが核となるお話なのですが、これがもう徹頭徹尾、おいしそうでおもしろい。

 

章のタイトルがすべて食事のメニューであることからもわかりますが、台湾のおいしいものを食べ尽くしているといっても過言ではありません。メニュー名では見当もつかず、説明や注釈を読んでも想像がつかないものも含めて、とにかくよく食べます。

 

また、「南の島」としての、台湾の自然の魅力にも惹かれます。色鮮やかで香り立つような植物の描写や、鉄道から眺める風景の美しさは、実際にそこに行き、体感してみたいと思わせてくれます。

 

ただ、なんと言ってもこの小説の魅力は、主人公二人のキャラクターと関係性です。良く食べ、かつ聡明な女性ふたりの掛け合いに引き込まれるのみならず、そのやりとりを通じて、当時の女性の置かれている立場や、統治、被統治の関係性による微妙な感情など、さまざまなことを垣間見せてもくれます。

 

あとがきまですべて読み終えると、小説としてのあまりの見事さに、思わずため息がこぼれました。現代風の軽やかな翻訳も素晴らしいです。台湾に興味がある方はもちろん、食や旅、おもしろい物語がお好きな方にもおすすめいたします。

 

 

続いては、「日台万華鏡」です。こちらは台湾に暮らす日本人の著者が、現代台湾の社会状況やジェンダー、食やアートに関することから、日台の比較文化にいたるまで、日本と台湾の「あいだ」で感じるさまざまなテーマを、明快に論じてくれます。

 

日本も大いに関わることですが、台湾の成り立ち、その歴史的背景は複雑で、軽々しく申し上げることはできません。支配や統治の歴史、原住民族、白色テロ、長期にわたる戒厳令、「ひとつの中国」を標榜する中国との関係などなど。

 

国家としての脅威にさらされ続けているからこそ、国や国民としてのアイデンティティや政治的問題については、つねに真摯に向き合っているように思えます。やや乱暴な物言いになりますが、あまりそうしたことは考えずに暮らしていくことのできた(ように思える)日本人にとっては、お手本となることも多く、とても勉強になります。

 

また、こうしたまじめなテーマのみならず、食や映画に関するお話も、今の台湾を知るうえでとても興味深くおもしろいです。そういえば、台湾バナナに関するお話は、台湾の基隆港と福岡県の門司港を結ぶ航路のごとく、「台湾漫遊鉄道のふたり」と「日台万華鏡」の両作品でしっかりとつながっております。

 

たまたま同じ時期に刊行されたこの二冊、どちらもそれぞれで楽しめますが、両方とも読むことで、よりいっそう台湾についての理解が深まると同時に、いろいろなことを考えるきっかけにもなります。どことなく似ている装丁もともに美しく、つい並べて置きたくなります。本屋さんで見かけたら、ぜひとも手にとってみてください。