本屋象の旅

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夏におすすめの本(中東編)
2023.07.21

こんにちは。これからしばらくは暑い日が続きそうですね。体調に気をつけながら、室内で本を読むにはいい季節かもしれません。ふだんはあまり読まないような本を手にとるのもいいですね。今日は、中東、イスラエルに関わる本を何冊かご紹介いたします。

 

まずは『砂漠の教室 イスラエル通信』(藤本和子)からまいりましょう。

 

 

1970年代に、ヘブライ語を学ぶためにイスラエルの語学学校に通った、藤本和子さんの初エッセイ集です。このたび河出文庫より復刊されました。

 

イスラエルの語学学校へ集うのは、国も年代もほんとうにさまざまな生徒たち。当然ながら、それぞれが抱える歴史的背景もさまざまで、藤本さんご夫妻との交流を通じて、世界各国のユダヤ人の方々が背負っているものが、この本を読むこちらにも伝わってきます。

 

イスラエルでの生活や、食、文化に関する、当時を知ることのできる興味深い紀行記であるとともに、30代だった藤本さんの思索が、その迷いのままに綴られるような編もあり、とても考えさせられます。イスラエルでヘブライ語を学ぶことと、日本人として歴史とどう向き合うかということ。歯切れのよい文章で、硬軟織り交ぜたテーマをおもしろく読ませてくれる一冊です。

 

語学学校を終えた藤本さんご夫妻は、生活の拠点をハイファという町に移します。そのハイファが舞台の小説を収めている作品が、『ハイファに戻って/太陽の男たち』(ガッサーン・カナファーニー)です。

 

 

6つの作品が収められておりますが、比較的長めの作品となる表題作の2編が、つよく印象に残っています。『ハイファに戻って』は、イスラエル建国の争乱の際に、やむをえず赤子を置いて逃れたパレスチナ人の夫妻が、20年後に元の住居を訪ねる話。『太陽の男たち』は、それぞれの事情でイラクからクウェートへの密入国を図る男たち3人の顛末を語る物語です。読みはじめると、パレスチナ人である著者にしか描けないであろう小説の世界に惹きこまれ、すこし緊張のうちに頁を閉じることになるでしょう。

 

西加奈子さんが文庫版解説のなかで、「何かについて知りたいと思ったとき、ニュースや優れたルポだけではなく、小説を手に取りたくなる」ということについて触れておられます。わたしはその考えにとても共鳴し、今にいたっております。何かを知るために、小説も読んでみるのは、いい方法かもしれませんね。

 

さいごに、『ガザに地下鉄が走る日』(岡真理)をご紹介いたします。

 

 

みすず書房らしく、とても美しい装丁のこの本。14章からなり、それぞれの章は短く読みやすいのですが、その内容は重く、けして一気には読み通すことができません。

 

イスラエル建国以来、今もなお空爆がつづく地区。閉鎖され、壁に囲まれ、物資も補給頼みで生活必需品の確保もままならず、ときに空爆され、移動の自由も、未来への希望もない世界。そんな非現実的な日常を送る人々がいます。

 

世界のいろいろな問題に対して、わたしたちはあまりにも無力です。ただ、だからこそ、まずは本を読んで知ることも、たいせつなことだと思います。刊行から5年が経過しましたが、悲しいかな、内容が古びるようなことはありません。暑い夏の日に、違う場所から見る夏の空を想像してみるのもいいかもしれませんね。

 

「地獄とは人が苦しんでいる場所のことではない。人の苦しみを誰も見ようとしない場所のことだ。」  ―マンスール・アル=ハッラージュ(『ガザに地下鉄が走る日』p.255)

 

本日は、以上3冊をご紹介いたしました。関連はするけどアプローチの違う本を続けて読むと、どちらかに偏ることなく考えることができるのでおすすめです。ぜひ本を読んで、この暑い夏をのりきりましょう。