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『カメラを止めて書きます』と『国籍と遺書、兄への手紙 ルーツを巡る旅の先に』
2023.05.26
こんにちは。今日はこちらの二冊をご紹介いたします。
まずは『カメラを止めて書きます』から。こちらは、ドキュメンタリー映画監督のヤンヨンヒさんによる、書き下ろしエッセイです。家族に関わるドキュメンタリーを撮りつづけるヤンヨンヒさん。なぜカメラを向けるのか、家族を撮りながら感じている思いなどが、優しく率直な言葉で語られます。
詳しくは本書をお読みいただきたいのですが、日韓併合、済州島四・三事件、朝鮮戦争、南北分断、帰国事業などなど、日本と韓国、北朝鮮の近代史に挙げられる大きなことがらが、ことごとくヤンヨンヒさん家族の歴史的背景に関わってきます。
歴史を振り返ると、なぜそのような決断をしてしまったのかと思わずにはいられないことが、国家レベルでも個人レベルでもたくさん出てきますが、当時の状況下において「どうしようもなかった」としか言えないことも、多々あると思います。
ヤンヨンヒさんは、映画作品や著作を通して、理不尽にも思えるその状況を伝え続けてくれます。思想、イデオロギーの違いや国家間の政治的問題を越えて、家族への愛の深さを根底に感じるヤンヨンヒさん。映画ももちろんですが、この本だけでもいろいろと学ぶことができますので、ぜひ読んでみてください。
つぎに、ジャーナリストの安田菜津紀さんによる『国籍と遺書、兄への手紙 ルーツを巡る旅の先に』をご紹介いたします。
こちらは、安田さんみずからのルーツを辿る旅の物語です。早くして亡くなった父と兄。多くを語ることなくこの世を去った家族の思いを、安田さんはルーツを探りながら感じ、考えていきます。
戦後の混乱やずさんな行政、法律の壁や国をまたいでの探索、今もなお続くヘイトクライムの状況など、憤慨せずにはいられない点は多々ありますが、何よりもこの本を読んで感じるのは、「語られなかったことば」の重みです。安田さんのご家族をはじめ、思いを胸に秘めたまま亡くなっていった方々の、語られなかったことば。決してひとくくりにはできない、国に翻弄され、社会とぶつかりながら生きたそれぞれの人生。こうした作品を読むことではじめて、その一端に思いを馳せることができます。
たまたま多数派、マジョリティ側に属するだけで、「気にしないでも生きられる」特権をもつと、安田さんは語ります。気にしないでも生きられるからといって、果たしてそのままでいいのかどうか、読む者に真摯に問いかけてきます。
今まさに問題になっている入管法改正の件もそうですが、人権を軽視する考え方のルーツも、この本に書かれているように思えます。読めば「気にせずにはいられなく」なると思いますので、ぜひ手に取ってみてください。