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わたしは思い出す
2023.03.10
こんにちは。今日はこちらの一冊をご紹介いたします。
2010年の6月11日に産まれた女の子。その日から、お母さんが育児日記として書き留めた11年間の記録。この本は、日記をもとにお母さんご本人が当時を振り返り、思い出された日々の営みが綴られております。
日記文学はこれまでにもいろいろと出版されており、コロナ禍を経てますます盛んになってきている感がございます。そのどれもが読んでみるとおもしろいのですが、「わたしは思い出す」は日記そのものではなく、ご本人が思い出す「語り」の形式をとっております。そうしたことで、読み手にはより読みやすく、他人の思いや生活を垣間見ることができるという「日記」本来のおもしろさをも併せ持つ、読み応えのある一冊となっております。
本来、他人に読ませることを想定していない育児日記ですので、描かれるのはお子さまの成長を中心とした、等身大の家族の生活です。ごくありふれた、といっては失礼ですが、小さいお子さまがいる家庭の日常と、そのときどきのお母さんの思いがストレートに綴られております。
もちろん、宮城県仙台市にお住まいのご家族ですから、震災の描写もありますし、震災の影響による、家族としての大きな決断なども記載されておりますが、内容はあくまでもお母さんの視点による育児や生活のあれこれ。お子さまへの変わらぬ愛情や、だんだんと大きくなり、ときにケンカもするような、傍から見れば微笑ましいエピソードも満載です。
もともとは、10年目の3月11日を迎えるにあたり、展覧会の展示プロジェクトとしてスタートしたという本書の企画。実際にかたちになるまでのプロセスも、この本の中に収められておりますのでぜひともお読みいただきたいのですが、よくぞ一冊にまとめてくださったというのが、読後の実感です。
この本で「思い出す」のは、あの日ではなく、かけがえのない日々の積み重ねです。生きているものすべてが積み重ねていく年月の重み。コンパクトながらも分厚くずっしりとしたこの本に、ある家族のかけがえのなさが詰まっております。
そして、おそらく誰しもが、自分の積み重ねてきた年月を振り返ることになるでしょう。きっとあなたも「思い出す」ことになります。ぜひ手に取って、確かめていただければと思います。